雁の人々

「頑朴へ行く」
 あんた、と女は目を見開いた。
「冗談じゃない。頑朴って、そんな」
 夫はほとんど初めて、彼女に慈愛の籠った目線を向けた。
「おれの両親も兄弟も飢えて死んだ。――おれはお前や子供たちに、そんなふうになってほしくない」
「あんた――」
「王を失えば同じことが起こる。ほかの誰のためでも行かんよ、おれは。だが、お前たちのためだからな」
 ――明けて翌日。司右府の大扉の前には長い列ができた。
 自ら兵役を志願する人々の列である。
東の海神 西の滄海 , pp.201-202

 雁に所属するキャラクタを一覧にまとめた。

読み 名前 説明
あげん 娃玄
あつゆ 斡由
いたん 帷湍
いんはくたく 院白沢
えきしん 亦信
おんけい 温恵
きぼう 徽芒
きょうおう 梟王 先代の延王。
げんかい 元魁
こうや 更夜
しゅこう 朱衡
しょうりゅう 尚隆
せいしょう 成笙
たま たま
ちゅちん 蛛枕
とら とら
はくたく 白沢
ひょうちゅう 標仲
ふうかん 風漢 尚隆の市井での仮の姿。
ぶんちょう 文張
ほうこう 包荒
ほうせんせい 豊老師
めいけん 鳴賢
もうせん 毛旋
ゆうぜん 勇前
よくひ 沃飛
らくじん 落人
りかく 悧角
りび 驪媚
ろくた 六太
ろくた ろくた 更夜が従えている天犬。大きいの。

 コンテンツ冒頭の引用文は、毎度イタチ兄弟の協議のもと決定しています。本ページの引用文は、反逆の旗を掲げた頑朴に対し、王のため、国のため、自分の大切なもののため、民衆が起ちあがる場面ですね。各地で王の勢力が膨らんでいく描写の、その皮切りとなる高揚感あふれる場面です。ですが、本ページの引用にはもう一つ有力候補がありました。

「あたしは戦うために来た。あたしたちに富を恵んでくださる王を守る。あたしはこの子を死なせたくない。殺すことを仕方ないと言って諦めてしまうような、そんな世に二度と来てほしくないの。そのためには玉座に天命ある王がいなきゃならない。王が将来この子を豊かに暮らせるようにしてくれるなら、いまあたしが王のために死んであげてもいい」∗1

 関弓で人々が兵役を志願する、その先陣を切った女性の言葉です。女性の言葉にある「殺すことを仕方ないと言って諦めてしまう」というのは、直前の口論で話題に上がった、彼女の妹が口減らしに殺された話のことです。その会話まで引用するのは長すぎて、でもその部分がないと内容が不明瞭になってしまう、というわけで残念ながら冒頭の引用には使いませんでした。
 この他にも、『青条の蘭』で標仲の代わりに関弓まで笈筺をリレーしてくれた人たちの描写も候補に挙がっていましたが、こちらも全部を引用するには長く、部分的に引用してしまうと前後の繋がりが曖昧になるので、結局、引用するのは断念しました。
 ただ、イタチ兄弟は彼らのことが好きです。彼らの言葉や振舞いが好きです。名前が示されることもなく、その場面限りの登場ですが、たいへん魅力的で、物語を鮮やかに彩るキャラクタであると思います。
 『十二国記』って、そういう名もなきキャラクタも魅力的ですよね。

∗1
東の海神 西の滄海 , p.199