戴の人々
「よくやった。――もう良い」
驍宗は柄を握りしめて凍った手を無理に開かせた。泰麒の手から剣を受け取る。追い詰められたように暗く輝く眼が驍宗を見上げた。驍宗は一つ頷いてみせる。
――まぎれもない戴の血脈。厳しい戴の冬を乗り切る苛烈な血が流れている。
白銀の墟 玄の月(四) , p.386
戴の国民は、気性が激しく血の気が多いと言われている∗1。
戴に所属するキャラクタを一覧にまとめた。
読み | 名前 | 説明 |
---|---|---|
あせん | 阿選 | |
あんさく | 案作 | |
うこう | 烏衡 | |
えいしょう | 英章 | |
えいちゅう | 詠仲 | |
えんし | 園糸 | |
えんちょう | 淵澄 | |
おうこう | 泓宏 | |
がいかつ | 崖刮 | |
かいせい | 回生 | |
かいはく | 皆白 | |
かえい | 花影 | |
かけい | 嘉磬 | |
かしゃく | 哥錫 | |
がしん | 臥信 | |
がんちょう | 巌趙 | |
きいつ | 喜溢 | |
きしゅん | 翬駿 | |
きせん | 帰泉 | |
きゅうさん | 朽桟 | |
きゅうじょ | 翕如 | |
きょうおう | 驕王 | 先代の泰王。 |
きょうしょう | 橋松 | |
ぎょうそう | 驍宗 | |
きょし | 去思 | |
きりょう | 基寮 | |
きろ | 癸魯 | |
くうしょう | 空正 | |
けいと | 計都 | |
けいとう | 恵棟 | |
げんえい | 彦衛 | |
げんかん | 玄管 | |
けんしゅ | 懸珠 | |
けんちゅう | 建中 | |
げんゆう | 弦雄 | |
こうか | 浩歌 | |
こうへい | 洽平 | |
ごうへい | 剛平 | |
こうゆう | 光祐 | |
ごうらん | 傲濫 | |
こうりょう | 項梁 | |
ごげつ | 午月 | |
ごそん | 醐孫 | |
さんし | 汕子 | |
さんとう | 杉登 | |
ししん | 士真 | |
しそん | 士遜 | |
しゆう | 此勇 | |
しゅうこう | 習行 | |
しゅくよう | 叔容 | |
しゅんすい | 春水 | |
じゅんたつ | 潤達 | |
しょうしつ | 詳悉 | |
しょうはく | 証博 | |
しょうわ | 浹和 | |
じょかん | 如翰 | |
しょきゅう | 杵臼 | |
しんりょう | 津梁 | |
せいか | 菁華 | |
せいげん | 清玄 | |
せいこう | 成行 | |
せいし | 静之 | |
せいめい | 世明 | |
せいらい | 正頼 | |
せきひ | 赤比 | |
せきれい | 夕麗 | |
せんかく | 宣角 | |
せんし | 宣施 | |
そうげん | 霜元 | |
そうこうへい | 草洽平 | |
そどう | 梳道 | |
たいおう | 代王 | 失道により麒麟を失ったことに逆上し、新たな麒麟が生誕するのを阻もうと捨身木に火をかけた王。 |
たいき | 泰麒 | 1. 驍宗を選定した麒。字は蒿里。蓬莱の名前は高里要。 2. 驕王を選定した麒。 |
たんしょう | 短章 | |
たんすい | 潭翠 | |
たんちょく | 端直 | |
ちゅうかつ | 仲活 | |
ちょううん | 張運 | |
ちょうてん | 長天 | |
ていせつ | 定摂 | |
とうし | 彤矢 | |
どうじん | 同仁 | |
どうはん | 道範 | |
とくゆう | 徳裕 | |
とんこう | 敦厚 | |
はくぎゅう | 博牛 | |
はぼく | 芭墨 | |
ひえん | 飛燕 | |
ひんけん | 品堅 | |
ふくしょう | 伏勝 | |
ぶんえん | 文遠 | |
へいちゅう | 平仲 | |
ぼうしゅく | 駹淑 | |
ほうじゅん | 方順 | |
ほうと | 酆都 | |
ほよう | 葆葉 | |
もくう | 沐雨 | |
やり | 耶利 | |
ゆうしょう | 友尚 | |
よたく | 余沢 | |
らごう | 羅睺 | |
りけい | 俐珪 | |
りさい | 李斎 | |
りつ | 栗 | |
りっしょう | 立昌 | |
れんそく | 斂足 | |
ろうさん | 琅燦 | |
ろはく | 呂迫 |
∗1
風の海 迷宮の岸 , p.213
本ページ冒頭の引用は、『白銀の墟 玄の月』のクライマックス、処刑されそうになっている驍宗こそが真の王であると証明するため、泰麒が麒麟の本性に逆らって自ら剣を振るった直後の場面です。ここで、戴の血脈――つまりは戴の血気盛んな国民性について言及されているのです。
この場面の他に、戴の国民性について言及されている箇所があります。蓬山で驍宗が他の昇山者と喧嘩をしたとき、つまり驍宗と泰麒の出会いの場面です。
この二つを並べてみましょう。
戴の民は気性が激しいので有名だった。本来ならその気質は麒麟の中にも流れているはずだが、何事にも例外というものはある。
(中略)
「蓬山公の御在所ゆえ、剣は抜かぬ。公にお礼申し上げるがよい」
少しも気負ったところのない動作、気負ったところのない声だった。
冷淡に言い捨てて振り返った男と泰麒の視線が合った。
――その瞳の真紅。あたかも血のような。
思わず蓉可の裾を握って退った。泰麒は彼が恐ろしかったのだ。∗2
「……蒿里か」
その人は桎梏に繋がれたままで、寸分の気後れも見せなかった。真紅の眼で、白銀の髪で、それでもやはり削げた頬で笑う。
「……大きくなったな」
「驍宗様」
泰麒は膝で前に進む。
「長い間、申し訳ありませんでした……」
その場に深く首を垂れ、額ずいた。
(中略)
「よくやった。――もう良い」
驍宗は柄を握りしめて凍った手を無理に開かせた。泰麒の手から剣を受け取る。追い詰められたように暗く輝く眼が驍宗を見上げた。驍宗は一つ頷いてみせる。
――まぎれもない戴の血脈。厳しい戴の冬を乗り切る苛烈な血が流れている。∗3
このシーンの対比、ヤバくないですか? ヤバいでしょ?
目の前に現れた王を畏怖ゆえに一度は拒絶してしまった泰麒と、驍宗が真の王であると証明するために驍宗の許へ駆け付けた泰麒。
王になるため腹心を連れて遠く蓬山を訪れた驍宗と、王であるのに逆臣に捕らえられ、首都でひとり処刑されようとしていた驍宗。
泰麒のために流血を避けて剣を抜かなかった驍宗と、驍宗のために剣を振るって血を浴びた泰麒。
交わされる主従の視線の、それぞれ驍宗と泰麒の眼が印象的な描写表現。そして、戴の国民に流れる血というキーワード。クライマックスにおける再会の場面は、二人の出会いの場面と、こんなにも鮮やかに対比されているのです。ね、ヤバくないですか?
∗2
風の海 迷宮の岸 , pp.213-214
∗3
白銀の墟 玄の月 (4) , pp.384-386