経済


産業

「芳や柳と違って、雁はなんにもねえからな。小麦を作って、牛を飼って、それで終わりだ」
風の万里 黎明の空(下), p.31

 国の基は土地によって成り立っている∗1。国民は成人すると、里の中に屋地を、廬の中に農地を国から与えられ、農業を営むことになる。この仕組みを給田という。与えられる土地は大人2人が生活するのに充分な面積があり、畑を耕したり家で手仕事をしたりして自給自足の生活を送る。これにより、国民は食・住については最低限保障されていると考えていい。
 だが一方で、自分の土地を売って小作農として雇われる、他人の土地を買い上げて店を営む、塾を開く、宿を経営する、林業や漁業に携わるなど、給田以外の手段で生活の糧を得る選択肢もある。この他にも、鍛冶師や傭兵など、より専門的な技能を要する職業に就くこともできる。

 十二国の産業には気候風土によって国ごとに特色がある。例えば柳・芳・恭は林業が盛んであり、戴は玉の産地として知られる。また、たとえ資源に恵まれなくとも、工芸に秀でる範のように国策によって産業を盛り上げている例もある。

 なお、十二国の世界には石炭や石油が存在しないらしく∗2、私たちの世界が遂げたような科学技術の発展は見られない。

∗1
風の万里 黎明の空 (上) , p.231

∗2
月の影 影の海 (上) , p.177


通貨

 通貨は硬貨で、四角いものと丸いものが何種類もあり、四角いもののほうが価値が高い。単位はどうやら「銭」で、硬貨にはそれぞれ値が彫ってあった。金貨や銀貨もあるようだが、紙幣は見かけない。
月の影 影の海(上) , pp.204-205

 通貨単位は「銭」と「両」が確認できる。両のほうが高額で、おそらく銭が一定額になるとより高額な両に単位がまとめられるのだと推測できる。
 紙幣は存在せず∗3、金銭のやり取りは硬貨か為替(いてい)で行われる。硬貨はそれ自体に彫られている字で値が分かる他、値に合わせて違う形状で製造されており、銭を単位とした硬貨においては丸い硬貨よりも四角い硬貨のほうが高額である∗4。くわえて、両を単位とした硬貨に5両銀貨が確認できる∗5が、この硬貨の形状については描写されていない。また、値と形状は不明だが金貨も存在する∗4

 作中で確認できた価格の例を以下に列挙していく。

  • 4銭 → 桃1つ(柳)∗6
  • 12銭 → 酒1杯(柳)∗7
  • 50銭 → 宿に素泊まり1泊2人(大部屋に衝立を立てて仕切って使う、最低級の部屋)(巧)∗8
  • 100銭 → 宿に素泊まり1泊1人(部屋の広さは畳2枚ほど、板張り、寝台無し)(巧)∗9
  • 約500銭 → 宿に1泊2人(小綺麗な部屋、寝台とテーブル有り)(巧)∗10
  • 約5両 → 小役人の1ヶ月の収入(恭)∗5
  • 約5両 → 平均的な市民の1ヶ月の収入(柳)∗11

 なお、十二国全域で同一の通貨を使用していると思われ、ひいては外国為替という概念も存在しないと思われる。

∗3
風の万里 黎明の空(上),p.265

∗4
月の影 影の海(上),pp.204-205

∗5
図南の翼,p.22

∗6
丕緒の鳥,p.105

∗7
丕緒の鳥,p.165

∗8
月の影 影の海(下),p.62

∗9
月の影 影の海(上),pp.204-206

∗10
月の影 影の海(上),p.206

∗11
丕緒の鳥,p.78

 陽子と楽俊が巧で泊まった大部屋1泊50銭の宿のようなものは、民の暮らしが裕福な雁には無さそうですね。
 ちなみに、巧で陽子が泊まった1泊100銭の素泊まり宿は、現代日本でいうところのカプセルホテルみたいなものかもしれません。

金融

 保護される三年間は、公共の学校や病院は無料で使える。そればかりでなく、こちらでは界身と呼ぶ銀行に持っていけば一定額の生活費まで与えられるらしい。
月の影 影の海(下), pp.120-121

 十二国の世界には、界身と呼ばれる金融機関がある。これは現実でいうところの銀行に当たり、金銭を預けたり引き出したりすることができる。為替(いてい)を介した金銭の授受を行うのも界身である。
 なお雁には、界身を通して海客(おそらく山客も)が国から給付金を受け取れる仕組みがある。

相続

 子供はどんな家の子供でも必ず数えで二十歳になれば公田を貰って独立する。大きな店も商売も、そのまま子供に継がせることはできない。
風の万里 黎明の空(上), p.323

 国から与えられた土地をはじめとする資産は、死亡すると国に納めなければならない。これを納室という。配偶者が存命の場合は納室せずに配偶者が相続できるが、子供に継がせることはできない。∗12
 しかし、生きているうちならば本人の意志で資産を手放すことができるため、子供に資産を売ったり報償という名目で譲ったりすることで生前のうちに子供へ資産を移し、実質的に相続を行うことは可能である。

∗12
図南の翼 , p.342